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 駅に近い歓楽街にある居酒屋は、土曜日の夜ということもあり、とても混んでいた。大学生とおぼしき男女のグループが大いに盛り上がっている。ついこの間まで自分も大学生だったはずなのに、遠い過去のように思えて懐かしい。いやいや、自分にはこんな楽しい思い出はそもそも無かったか……。  久しぶりに居酒屋で飲むビール。枝豆に揚げ出し豆腐、水なすの浅漬け、もつ煮込み、唐揚げ、ポテトフライ、さらにピザも注文していた。所狭しとテーブルに並べられると、なんだか幸せな気分になるからだ。 「春日井さん、一気に注文し過ぎやねん! そんなに食べれんの?」  向かいに座る脇坂恵美(わきさかえみ)は関西弁でそう言って、中ジョッキをあおった。脇坂とは就職活動で知り合った仲だ。合同就職説明会でたまたま席が隣で、脇坂が話しかけてきたのがきっかけだった。生粋の浪速っ子で、しっかり者のお姉さんタイプだ。見た目は上品な色白美人なのに、こてこての関西弁とのコントラストがおもしろい。春日井とはどういう訳か馬が合い、お互い就職先が決まった後も、こうして時々一緒に飲みに行くようになったのだ。 「……ふーん。係長と春日井さんの2人だけなんや。変やねぇ。おもろいけど」 「……ぜんぜんおもしろくない! もう、大変よぉ。最悪!」
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