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「で? イケメンなん?」
「うーん、まぁ、イケメンかな……」
「ええ? マジで? どんなん? 誰に似てる? 芸能人で言うたら誰よ?」
まだまだ愚痴り足りない春日井を尻目に、脇坂の柳係長に対する食いつきがやけに良い。
「ええ? 芸能人? ……うーん。誰かな……。竹野内豊? かな?」
脇坂がきゃーっと、歓喜の声をあげた。周囲の客が何事かと振り返る。学生の頃と変わらないノリだ。恥ずかしいから止めて!
「ちょ、ちょっと! 叫ばないでよ! みんな見てるでしょ!」
「めっちゃイケメンやん! ええなぁ、マジで? うちの会社なんか腹の出たおっさんばっかりやで!」
まぁ、確かに見た目はイケメンなのだが、かなりのくせ者なのだ。想像力豊かな脇坂が期待する、アバンチュールとはほど遠いことを説明したいが、話しが長くなるので止めた。
「でも、脇坂さんは旅行会社でしょ? 楽しそうでうらやましい」
「ぜんぜん! ノルマもきついみたいやで。先輩らいつもしんどそうやもん。……あーあ、私も春日井さんみたいに総務がええなぁ」
思い描いていた未来と、実際が異なるのは珍しいことではない。3年以内で辞める新入社員が多いのはそのせいだろう。旅行会社の営業。仕事は確かにきつそうだが、きらきらした華やかな仕事のように思えた。しかし、外からは分からない苦労があるのだろう。私だけではない。突きつけられた現実に、脇坂も悩んでいるのだ。
「すんませーん! ハイボールください!」
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