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ジンジンする腕とか混乱中の頭とか余裕のない俺とか全部取っ払って大人な自分で会いたかった。
高校時代の思い出がフラッシュバックする。
振り向くとマスクをずらした男性がいて、その顔は間違いなく幼馴染の彰介でなんだか涙が出そうになった。
「そうだよ。凪咲だよ。久しぶり!」
彰介の顔が少し緩んでにっこりと微笑みを浮かべる。
「おう。久しぶりだな。元気か?」
11月の空っぽのホームの上で僕ら偶然巡り会うなんて、まるで神様が2人を駒にしてすごろくしてるみたいだ。
白い息越しに見える黒スーツの彰介は僕の何倍も大人に見えて眩しかった。
僕より7cm高いからというのもあるんだろうけれど、それでもやっぱり何か違う。
その何かはよくわからないけれどその差が羨ましくて仕方がない。
今思えば学生時代からそうだった。
彰介という人間はどこか物憂げでだけれども頼りがいがあって人に好かれる人で周りの子とはどこか違った。
きっと仕事ができるのだろう、彼のバックは重そうだった。
「彰介、バック重そうだね。何の仕事してるの?」
「塾講師。まあ、いつもこうだから慣れたよ。凪咲は?」
「僕は看護師。最近は後輩もできたから忙しいけど頑張ってる。」
「そうなんだ。じゃあ、今度可愛い看護師さん紹介してよ。職場におっさんしかいないからさ。」
「あー、なるほどね。」
内心その言葉を100%信じきれなかった。
柔軟剤の香る皺ひとつないスーツから女の影が見え隠れするからだ。
でももし、本当だったら嬉しい。嬉しくてもさらなる喜びは一生俺にはやってこないというのにだ。
吐き出される白い息にため息を混じらわせて凍える手を少女漫画の脇役みたいにすり合わせる。そうしていたら彰介は俺の右手を彼のガウンポッケに招き入れた。
少女漫画で言えばここはときめくシーンなんだろう。
でも悲しいかな、これは彰介の癖であって特別な意味は1mmもないのだ。
「…変わってないね。そういうところがあれば彼女なんてあっという間にできる。」
「え? そういうところって何がだよ。」
やはり1mmもないのであった。
「女子は少し強引なくらいのが良いらしいって話。」
「なるほどな。てか、電車もうすぐ来るんじゃね?」
遠くの線のその先に光が見えた。暗闇の中に灯る光のせいだろう、某アニメのシーンを思い出す。
黒い影と少女が電車に乗って自分探しの旅に出るあの場面だ
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