序章 イケメン。現代のホテルからどっかに飛ばされる。

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 さて、それ以外にも数人の女性と関係を築かせてもらっているオレは、「沸いたから来て♪」と、彩り豊かなステンドガラスがはめ込まれた浴室から声を掛けて来る彼女に返事を返しつつ、スマホのセキュリティを作動させてから立ち上がり、彼女と同様の一糸まとわぬ姿で緩々と浴室に赴き、透明度の高いガラスのドアの前に立ち「入るよ」と一声かけてからノブを回した。 「おや?」  オレの眼前に広がっていたのは、ありえない奥行きの規模を持ったドデカい風呂場。  どう見てもそこは、由緒ある高級温泉宿の古代ローマ風の大浴場と云っても過言ではない、極めて豪華な入浴施設であったのだ。 「なんだ、ココ?」 「これはこれはハイドリッヒ姫。お待ち申し上げておりました」 「はい?」 「御手を失礼いたします」  一拍置いて間の抜けた返事をしたオレに話しかけてきたのは、映画かアニメでしか見たことのない光沢のある如何にも高そうな黒いモーニングを着た白髪の紳士。 その御仁が自らの手を包む薄い褐色の子羊の革手袋の掌に、そっとオレの手を乗せ恭しく傅いたのだ。なんだってんだ一体。しかも辺りをよく見まわすと、彼の背後には二列になってお互い身体を正対させた大勢の執事たちが微動だにせず、何故だかオレの方に顔だけを向けて立っていたのだから不気味だ。  うん。どうやらオレはホテルの浴室のドアの前で、コントのアホの子の様に立ったまま寝てしまったらしい。  でなければ此の状況の説明が出来ないし、これが現実だとはとてもではないが思いたくも無かったのだ。  そう。今から思い返すと此の時のオレは、こう考えざるを得ないほど頭の中が大混乱していたのだ。  ちなみにオレは?玉屋幸太郎?という名の男で年は二十八歳。余所様から見れば割と高身長・高学歴・高収入のお買い得なイケメンなんだそうで、しかも色んな意味でヤリ手の営業マンなのであって、決して?ハイドリッヒ?などという、とんでもなくふざけた男名前の御姫様なのではないのである。  と、ガチムチで上半身裸の執事野郎たちに全裸に大の字状態で神輿みたいに支え上げられながら、無情にも浴槽に向かって運ばれるオレは一人悪態をつくのであった。  やめて!ノーマルな〝俺自身〟の威容が、アブノーマルそうな数十人もの男共に丸見えじゃん!!  めっさ恥ずかしくて死にそうなんですけど? マジで誰か助けて!ヘルプミー!!
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