ー12ー キャンプ

2/3
前へ
/40ページ
次へ
 僕と妻が付き合う前、僕の友達カップル(信吾と里恵さん)と咲と僕でキャンプをしたことがある。  テントを立てた後、テントの中に虫が出て大騒ぎをしている里恵さん。  そこでもちろん信吾が登場するかと思いきや、さっそうと咲が現れた。 「どうしたの?里恵ちゃん」 「咲ー。虫ー」 「あぁ、虫ってバッタだよ」  そう言って咲は素手でバッタを捕まえた。少し離れた所で優しく地面に放していた。 「咲さん。虫、平気なの?」 「うん。みんな好き。同じ命だから」  その時の咲の透明な瞳に僕は息を飲んだ。 「咲ちゃんありがとうー。俺、虫ダメでさ」と陰に隠れていた信吾が出てきた。 「もう!あんたって人は!すぐに助けに来てよー」と里恵さんが頬を膨らませてやって来た。 「ごめん里恵。バッタは本当に無理なんだよ」 「次は助けてよね!」 「もちろん!俺だって勇気出すからな」 「頼りなーい」  そうやって楽しそうに会話をする二人を咲は嬉しそうに見ていた。  早めの夕食を終えて、僕は咲に誘われて洗い場に皿などを洗いに来ていた。  皿を洗いながら咲が口を開いた。 「里恵ちゃんと信吾さんを二人きりにしてあげたくて。付き合わせてしまってすみません」 「いいんだよ。僕も手伝えて嬉しいから」 「私、里恵ちゃんが幸せになって欲しいと心から思っています。バッタ事件の時みたいに笑っていて欲しいって思います。里恵ちゃんの幸せそうな顔を見ると、あぁ良かったって思えるの」 「咲さんは友達想いなんだね」 「大切な友達だから」  そう笑った咲の顔がとても優しくて、僕の心までも優しくしてくれた。  友達の幸せを妬む人はいるのに、心から応援して幸せを願う人がいる。この人はなんて素敵な人なんだろう、と僕は思った。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加