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「ここだね」
「うん」
僕と妻は新しい家族を迎えるために、ある施設に来ていた。野外で保護、あるいは事情により保護された動物たちがいる。いわゆる保健所である。
暗いイメージだったが、中は明るく開放的だった。犬舎を見学している時、妻が一匹の犬に目を止めた。
「この子、家族に迎えたい」
「この子?」僕も妻の横でしゃがみ、中を覗き込んだ。
茶と白の毛で、片耳が垂れた細身の中型犬だった。こちらを少し不安げに見つめていた。
「この子が楽しそうに走って遊んでいる姿が見たい。この子が安心して暮らせるようにしたい」
「そうか・・・うん、そうだね。この子と一緒に散歩に行きたいね」
僕らは顔を見合わせ笑った。
以前行った動物園のふれあいコーナーで動物たちとふれあう妻がとても楽しそうで、幸せそうだった。動物たちは僕には与えられないものを妻に与えてくれる。そして僕にも与えてくれる。動物を新しい家族として迎えることは、僕たち二人にとってプラスになると思ったんだ。
後日、僕と妻は研修を受けた。命を迎えるということ、犬の飼い方についてだ。責任を持って命を迎える覚悟がないといけない。僕と妻は改めて気持ちを引き締めた。研修の後、譲渡会に参加した。
新しい小さな家族は「サヤン」と名付けられた。
妻によると「愛しい人」という意味だ。
僕と妻の近くでボール遊びをしているサヤンを見つめ、
うんと愛情をかけよう。安心して僕たちに甘えられるように。
二度と悲しい思いをしないように。
最期まで一緒にいて、たくさん思い出をつくろう。
そう僕らは誓い合った。
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