2人が本棚に入れています
本棚に追加
手術当日、手術室に入る前に咲は僕に「幸ちゃん、ありがとう」と言った。僕は手を握ることしかできなかった。不安でたまらなかった。
手術が始まってから、咲のお母さんと二人で手術室の入り口を見つめていた。僕は意を決してお母さんに話をした。
「僕、この手術が無事に終わったら、咲さんにプロポーズをします。お母さんにお許しをいただきたいと思っています」
お母さんは驚いた顔をした。僕をまっすぐ見つめたその目は、咲によく似ていた。
「どうして?」お母さんは僕に尋ねた。
「咲は今後、女性として大切なものを失ったことを背負って生きていく。幸介くん。結婚しても二人の子どもは望めない。これからどんな症状があるのかもわからない。あなたのことだからたくさん考えただろうけど、理由をきかせて?」
僕は一つ一つお母さんの目を見て話した。
「僕は咲さんを心から愛しています。咲さんは女性として大切なものを失う。その苦しみや悲しみは男の僕には想像を超えるものだと思います。だからこそ、僕は咲さんの心に寄り添って一緒に苦しんで悲しんで生きていきたい。咲さんが安心して笑顔であるように、何があっても支えます。僕は何よりも咲さんが大切で、咲さんの存在が僕の幸せなんです」
咲のお母さんは泣きそうな顔をしていた。
「そんなに咲を想ってくれていたのね。咲は幸せ者だわ。・・・幸介くん。咲をよろしくお願いします」お母さんは優しく笑った。
「ありがとうございます!」僕は深く頭を下げた。
最初のコメントを投稿しよう!