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「ただ・・・」お母さんが心配そうに言った。
「ただ、咲がうんと言うかどうか」
僕はお母さんを見つめて言葉を待った。
「幸介くんには秘密にしてって言われたんだけれどね。手術が終わったら、咲は幸介くんと別れるつもりよ」
「えっ・・・どうして」
「あなたの幸せを願っているから。自分は子どもを産めなくなる。幸介くんは優しいから、自分と一緒にいてくれる。でも、健康なら叶えられたことも叶えられない。あなたには普通の幸せを手に入れてほしいって」お母さんは一つ息を吐いて続けた。
「私もね、咲に本当にいいの?って聞いたの。そしたらあの子、泣きながら嫌だって言ったの。あんなに自分を大切にして愛してくれる人はいないって。でもこれは自分のわがままだから、今まで愛してもらったから。今度は自分が彼を幸せにしないとって言っていたの」
僕は咲の心に涙が出た。こんな風に想ってくれたんだと。僕は幸せ者だと。
「お母さん、僕は本当に幸せ者です。今のお話でもっと一緒にいたいと思いました」
「咲は頑固だよ」
「はい。大丈夫です。話し甲斐があります」
僕とお母さんは微笑んだ。静かな時間が流れた。
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