ぼくの夢

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ぼくの夢

 遂に、遂にこの日がやってきた。  箱を開け、中身を取り出す。  いつからだろう?人が宇宙(そら)を見上げなくなったのは……。  あなただって、きっと、宇宙(そら)なんて観たことないのでしょう?  僕が読んだ本によると、昔の人はよく宇宙(そら)を観たんだって。不思議だと思う?宇宙(そら)なんて観たところで何の足しにもならないのに、って。 「どうしてあんたはいつもそうなんだろうねぇ?そのもらったお年玉で、流行のアプリでも買えばいいじゃない」  家庭用家事ロボットの希(のぞみ)ちゃんが運んできた甘酒に口を付けると、母は言った。 「ねぇ、希ちゃん」 「そうですよ、キョウスケさん。宇宙なんて観たところで、無機物の塊が見えるだけです。宇宙に地球と似た星が存在する可能性は1/1000000000000。さらに、その星に生物が存在する可能性は1/1000000000000000000000。そしてその生物が人類のような知的生命体である可能性は1/100000000000000000000000000000000000000000000000です。ですから、宇宙の調査はわれわれAIにお任せください。われわれAIは、人間がそのような雑務に煩わせられず、より快適な生活を送るために存在します」  僕は返事をしない。そんなことは百も承知だった。タブレット端末で貯金箱アプリを開き、貯金額を確認する。ピコーンと端末から音がした。貯金額は、目標額を上回っていた。  母が言う。 「ああ、暇ねぇ。これも希ちゃんたちのおかげだわ。なんてすばらしいことでしょう」 「僕には、夢があります」  教室中がざわめく。 「センセー、ユメってなに?」 「夢とは、人間が寝ているときに、……」 「そうじゃなくて、僕には、将来の夢があります」  教師ロボットの先生も、他の生徒もポカンとしていた。  本によると、昔の人は誰もが夢をもっていたんだそうだ。叶おうと叶うまいと、それは、確かに人に生き甲斐を与えていた。  いつから人は、宇宙(ゆめ)を見なくなったのだろう?  箱を開けると、古びたそれが姿を現した。一つ一つ、丁寧に布で磨き、組み立てる。組み上がった円筒形のそれを、ベランダの手すりにしっかりと固定した。  僕には夢がある。それは……。
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