真夜中の太陽、真昼の月

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【登場人物】 日浦陽介(32) 探偵、元刑事 望月 愛(31) 刑事、日浦の元相棒 【プロット】  着信音で日浦陽介が目覚めるとそこは、屋外階段の踊り場だった。 横には花束とウォッカの瓶。そう、昨日は刑事時代に冤罪で追い詰めここで自殺した男の命日。その魂を弔う為にここで酒を飲み寝てしまったのだ。  電話は、元同僚刑事の望月愛からだった。三日前、渋谷で小・中学生30人が忽然と消える事件が起きたのだが、今朝、その子供達の家庭に一斉に身代金を要求する電話が掛かってきたと言う。しかも奇妙な事に、犯人側は決して身代金の金額は提示しないと言う。 「子供を助けたかったら我々が納得する身代金を提示せよ。こちらが納得する額であれば子供は返すが、そうでなければ子供は死ぬ。1時間後に電話する。よく考えろ」 変声器を使っていた為、相手の性別も年齢も判らなかったが、その内容はどの家庭もほぼ同じだったと言う。しかも逆探知できないスカイプに拠る連絡だった。 警察は難色を示すも、日浦は犯罪心理で事件を紐解いた。先ず親達の財産を調べると、その財にあった身代金額を言って欲しいと嘆願した。  1時間後、ずばり日浦の推理は的中し、身代金を渡す前に29人もの子供達が戻ってきた。聞けば身代金の提示額に満足したからもういいのだと言う。その言葉に日浦は、子供達に尋ねる。この誘拐事件は君達が全員で仕組んだものだよねと。  子供達は頷き、総て打ち明けた。生活保護を受ける貧困層から、名のある会社社長の子供まで不遇な子供達がSNSを介在して集まったのだと。  皆、親にネグレクトされている。自分達は死んだ方がいいのか――誘拐事件を企てたのは、自分達の命につけてくれる金額で親の愛情を計ろうとしたのである。 そう、身代金の要求電話を家にしたのはそれぞれ子供達だったのだ。 身代金の額は様々で、3百万という安い身の代金でも納得した子は、生活保護家庭の子だったからである。ただ最後の一人、立岡物産の息子だけが出てくるまでに長い時間を要した。父親に提示して欲しかった自分の命の値段は10億だったのに、5千万と言ったからである  こうして漸く事件は解決した。  しかし、最初に身代金を値切った親達は深く反省した。親子関係が修復するかどうかは判らないが、子供の無事を確認して流した親達のあの涙だけは、子供達の心に届いて欲しいと日浦は願った。
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