2.ラシェーカの光

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足の先から胸のあたりまで、自分の目で確認できる範囲をくまなく観察した。 手や頭と同様に、出血している部分はどこも無かった。 ただ一つ、気になる点があった。 服装である。 黒のスニーカーに、黒のカーゴパンツ。そして黒で無地のパーカーを着ている。 なんとも締まりのない緩い服装ではあるが、これが楽で一番気に入っている。 問題は、その上になぜか白衣を着ている。ということである。 森の中で地べたに直接寝ていたせいか、かなり泥だらけになっており、もはや白衣とはよべない代物ではあったが、その形状はまさしく白衣である。 全身黒ずくめで白衣を羽織るスタイルは、職場である大学の研究室での正装のものである。 しかし、今その服装であることはおかしい。 何故ならば、私は職場でこそ、その格好であるが、外出する際は白衣を脱ぐことにしている。 大学構内の学食に行く程度ならまだしも、フィールドワークにだって白衣は着ていかない。 それは、白衣を着ていると、自分が研究者であることを全面に押し出しているようで気が進まないということもあるし、なによりも、白衣が汚れることが嫌いだったからだ。 潔癖というわけではないが、「白衣」というだけあって、白いものだ、という固定概念があった。 今の状況を正当化すると、ここが大学構内ということになってしまう。 「いやいや、まさか。」 そんなことはありえない、と思ってはいるが、心のどこかでは「もしかしたら...」とも考えてしまっていた。 大学には植物の研究をしている教授も数多く在籍している。 研究しているなかで、植物を異常成長させてしまう何かを見つけてしまったのではないだろうか。 そう、たとえば、隣の研究室にいた林藤教授なんて...。 と、ここまで考えたところで、はっとした。 ここがまず、大学だったとして、何故私は大学にいたという記憶がないのか。 そもそもそうではないか。 私は自分が何故こんなところにいるのか把握していなかったのだ。 それなのに、広がる未知の植物に好奇心を膨らませた。 いわば、この異常な状況と向き合いもせず、逃げていた。 現実逃避をしていたのだ。 鼓動が早くなるのを感じる。 どくどくと脈を打ち、全身を血が駆け巡っているのがわかる。 怪我をしていなくてよかった、と切に思った。 きっと傷があったら出血量が増えていただろう。
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