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木々が揺れている。
ざわざわと音を立てて。
一面に広がる深緑の隙間から、白く輝く陽の光が差し込んでいる。
全身の痛みに耐えながら、私はゆっくりと両の目のまぶたを開いた。
仰向けで倒れたまま立ち上がることはできない。目を開くことが精一杯であった。
突然のことで上手く対応することができなかった。
まさか私があそこでしくじるとは、不覚である。
あまりにも予想外の状況に私は周囲に気を巡らせることができていなかった。
だからであろう、その瞬間、重く鋭い衝撃が頭を貫いた。
金属製の尖ったハンマーで力一杯叩き落とされたような衝撃。
つむじから喉の奥底まで裂けてしまったのではないかと心配になったが、それは杞憂に終わった。
血は流れてこない。意識も飛ばない。
むしろみるみるうちに痛みが引いていく。
代わりに頭に残るのはいくつもの吸盤が吸い付いているような感覚だった。
その吸盤から全身の力が吸い取られていく。
あんなことがあった直後、全身傷だらけでただでさえ力がはいらないというのにさらに力が抜けていく。
意識はどんどん遠ざかる。
不思議と不快ではない。草の布団に包まれて、ゆらゆらと。木々が鳴き、風がそよぐ。意識が微睡みの中に落ちていく。
意識の落ちる最中、私は最後の力を振り絞り、顎をあげさらに上を向く。
そこにいた生物は今後忘れることはできないだろう。その奇怪な生物は。
例えるならばヘラジカのような姿をしていた。
体全体は長い体毛で覆われている。その体毛は純白といっても過言ではないほどに白い。普通野生動物というものは、いくら白い毛が特徴とはいっても、土埃などで茶色く汚れているものである。例えば羊がいい例であろう。この生き物の白さ...一体どこからきたのだろうか。
顔であろう場所から2本の、水色の透き通った触手が伸び、そのまま私の頭に繋がっている。
その触手からどんどん何かが吸われていくのを感じる。
この時はまだ、何が私から奪われていっているのかは解らなかった。
そして何よりも私を驚愕させたものは、その動物の瞳だった。
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