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顔の全貌はその長い体毛のために確認することはできなかったが、その隙間から片方に2つずつ、合わせて4つの瞳が私をじっとりと見つめていたのだ。
4つ。
見るからに哺乳類であろうその生き物は、4つの瞳をもっていた。
長らく動物学者を生業としていた私でも、哺乳類の多眼動物というものにはであったことがなかった。
いや...知っている。私はどこかで4つ目の哺乳類を見たことがある。
いったいどこで見たのだろうか。微かなイメージが浮かんでは消えていってしまう。
これほどまでにもどかしい気持ちは初めてかもしれない。
ああ、私の人生の幕切れはこんなにもあっけなく、後味の悪いものだったか。
悔しさともどかしさが入り混じる中、私の体力は限界を迎えた。
目を開いているのも辛い。
純白の奇妙な生き物がゆっくりとこちらに近づいてきているのは確認してはいたが、逃げる気力もなくそっと目を閉じた。
暗闇が私の体を包み込む。それはまるであの漆黒の瞳の中に吸い込まれてしまったようだった。
私の意識は大海原に連れ去られていく。
ゆらゆらと。
揺られ、沈むでもなく、浮かぶでもなく、全身が柔らかいものに包まれていくその感覚は、不快ではなかった。
ああ、そうなのか。最期の時とは、こんなにも気持ちがいいものなのか。
全身の強張りが次第にほぐれていき、私の意識はついに完全に落ちていった。
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