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私は今、後悔している。
土地勘などあるはずもない異世界の街の外れを、途方に暮れて彷徨っている。
右手は白い毛玉を持ち、左手は小さな女の子と手を繋ぎ、日本だったら不審者と間違えられそうな状態で。
少女は誰の目から見ても、明らかすぎるほどふてくされている。
頬を膨らませて眉間に深いシワを刻み、絶え間なく前方に睨みを利かせているが、私の手はこれでもかという力で握っている。
私たちはあの宿に戻りたいのだ。
この異世界では、ケータイのナビは役に立たない。開発者からしても、地球外で使用することは想定の範囲外だろう。
そもそも今私は、ケータイという超ハイテク便利グッズは持っていない。
この世界に公衆電話があるならば、すぐにでも飛びつく勢いだが、シーバの電話番号はわからないし、この世界のお金も持っていない。
頼みの綱である少女も、期限を悪くしている。
言葉を発することを拒否している彼女の感情表現といえば、手を握る力の強弱だけである。
つまりもうお手上げなのだ。
万策尽きた。
部屋で大人しくしていればいいものが、何故こんな事になっているのか。
それは、1時間前に遡る。
シーバが食堂から出て行ったあと、周りを見渡すと他の客は誰も残っておらず、私だけが座っていた。
朝食の時間が終わったらしく、シーバがいなくなった厨房では、残されたスタッフによって後片付けが進められている。
きっともうすぐ食堂側にも入ってくるのだろう。
邪魔にならないよう早く退散しようと、席を立った。
食堂を出て、廊下を進む。
ラウンジを横切り、建物の奥に位置する階段を登り、自室にたどり着く。
この道中、他の客やスタッフに出会う事は無かった。
皆それぞれ今日の予定のために、行動を開始しているのだろう。
私は部屋に入ると、一目散にベッドに向かった。
その勢いでベッドに飛び込み、心地よい弾力に抱かれながら考えを巡らせた。
正直なところ。
2時間も自由な時間が与えられたところで、何もすることがない。出来ることがない。
強いて言えば、この宿の探索はできるが、したところで、である。
つまり私は暇だった。
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