24人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
不思議なことに、体調は万全である。
昨日の事が嘘かと思うほどに。
なので、寝こむ必要もなければ眠くもない。
布団に寝転がってはみたものの、ただ天井を見つめるだけでは無意義にも程がある。
部屋には布団と机以外何もなく、ぼーっとテレビを見ることもできない。
そもそもこの世界にはテレビがないのだろうか...。
ぼんやりと部屋の中を見ていると、シューズボックスの上に何かが置いてあることに気がついた。
朝部屋を出た時には無かったものだ。
いそいそと布団から出て近づいてみると、それは昨日着ていた私の服だった。
洗濯までされているようで、白衣はぼろぼろの傷だらけであるものの、その特徴的な白さを取り戻していた。
「おお、これはこれは!」と服を天高く持ち上げた。
「よしよし、おかえり、こんなぼろぼろにしてごめんよ。」などと、白衣をさすりながら独り言をこぼす姿は、ひどく痛々しいものだっただろう。
しかし私は今一人。
他人に見られる心配などない。
この状況を存分に楽しんだ。
そんな時、頭にパッとアイデアが浮かんだ。
「そうか、これに着替えれば外の空気を吸いにいけるじゃないか!」
私が今着ているのは、この宿備え付けのパジャマだ。
昨晩気を失っている時に誰かの手によって着替えさせられていたため、もともとの衣服の所在がわからなくなっていたのだ。
助けてもらった恩もあり、とくに衣服には触れることなくきたが、ここにきて戻ってきたのは幸運だった。
さすがに真昼間からパジャマで異郷の街を行く勇気など、私には無い。
これさえあれば、多少浮くとしても、パジャマよりはマシだろう。むしろ、旅人らしさが増していいのではないだろうか。
るんるん気分で服を着替える。
悩んだ結果、ぼろぼろの白衣を羽織るのはやめた。
上下黒の無地になってしまうが、特に問題はない。
ズボンのポケットに手を突っ込み、自分の持ち物を確認してみたが、黒い小さな小銭入れしか無かった。
いつも肌身離さず持ち歩いていたはずのケータイが無いことが少し気になったが、どうせ持っていても何にもならないので良しとした。
小銭も、あったところできっと使えないので、役に立つものは何も無かった事になる。
服が戻ってきただけでもラッキーだと自分に言い聞かせ、部屋を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!