24人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
私は今、混乱している。
目を覚ますと、森の中にいたからだ。
森の中で一人横たわっていた。もちろん、なぜこんなところにいるのか見当もつかない。
全身打撲しているのか、どこか少しでも動かすとひどい痛みが体を駆け巡る。
そのため起き上がることはおろか、周囲を確認することもろくにできなかった。
仰向けで大の字に寝転んでいる。
見えるものといえば、はるか彼方、上方で茂っている木々の葉だけである。
この森に生えている木はとても奇妙だった。
非常に背が高いのだ。目で確認できるところだけでも50メートルは超えているだろう。
しかも1本や2本ではない。生えている木々の全てがその高さなのである。
加えて、その木々の幹には枝が一つも無く、綺麗な円柱だった。
代わりに、遥か上空では枝が大きく広がり、葉も生い茂っている。
横から見たら巨大なT字をしているのではないだろうか。そんな印象だった。
こんな植物を今まで見たことがない。
強いていえばリュウケツジュに似ていなくもないが、大きさが比べ物にならない。
自分の置かれた状況を全く持って把握できていないのに、この植物に対して興味がどんどん湧き上がってくる。
普通は恐怖を感じるのであろうが、好奇心の方が格段に勝ってしまっている。
昔、山に川釣りをしに行った時、熊に出会ってしまったことがあったが、その時も同じだった。
普通であれば、恐怖で動けなくなったり、死を覚悟する場面だが、私は逆に生き生きしていた。野生の熊に出会ったのことがなかったからだ。
野生の熊は人間を見た時どんな反応をするのだろうか。
どんな匂いがするのだろうか。
いくら本で読んでいるとはいえ、実際に見るのとではまるで違う。
熊の息遣いがリアルに迫ってくる、そんな緊迫した環境でこそ、その本質を理解しやすいのだ。
「沙華!何やってるんだ馬鹿野郎!!はやく上に上がってこい!!」
一緒に釣りに来ていた友人の天ヶ原の叫び声で私は我に返った。
そして天ヶ原のいる橋の上に登った。
もともと橋から降りてすぐのところにいたため、登るための階段も近く熊に見つかる前に橋の上に戻ることができた。
私が戻ってすぐに、50メートルほど先の対岸を川に沿って上流の方向に熊は去って行った。
最初のコメントを投稿しよう!