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外は快晴で、たまに吹く風が運ぶ爽やかな香りが心地よい。
宿を入り口のすぐそばに立ち、街並みを眺めていた。
後から考えると、それが悪かった、と後悔せざるを得ない。
何故少しでも移動しなかったのか。
あと30センチでも左右にズレていなかったのか。
木造の建造物で彩られたモダンな街に見とれていた時、どこからか「ぴゅいーーー。」という音が聞こえてきた。
音と言うよりは動物の鳴き声だったが、周囲を見回しても、それらしいものは見当たらない。
はて、と思い正面に顔を戻したとき、それははるか上空から頭上にやってきた。
「ぼごすごっ」と強烈な音を立てて私の頭に何かが直撃した。
私は急な衝撃で前のめりに倒れたが、体制をすぐに立て直す。
足元には、突撃してきたであろうもの(?)が転がっていた。
白くてもこもこした毛玉。
私の目にはそう見えた。
バレーボール大の毛玉は、まるでルンバのように周囲のホコリをまといながごろごろ転がっている。
恐る恐るそれを両手で拾い上げた。
掴んだ手から伝わるのは、生き物のような温かさだ。
毛の下は、犬や猫のような肌触りだった。
ぎょっとして、毛玉をくるくると回転させると、案の定、白目を剥いた目玉が現れた。
驚きのあまり、つい空中に放り投げてしまう。
その時「こらぁーーー!!」という叫び声がどこからか響いた。
「ご、ごめんなさい!」
反射的に謝ってしまったが、すぐにその怒声が私に向けられたものではないとわかった。
私が謝ったのとほぼ同時に、白い毛玉は空中で目を覚まし、自身の弾力で数回地面を跳ねた後、そのままごろごろと転がって消えていった。
ほどなくして、先ほどの怒声の主と思われる小さな女の子が現れた。
小学生くらいの少女は、ぜーはーぜーはーと息を切らせて走ってきた。
「はぁはぁ、お、お兄さん、すいません、この辺で、白い、毛玉を、見ませんでしたか、はぁはぁ。」
「あ、うん、見たよ。あっちに転がっていった。」
「はぁはぁ、まったく、あいつ...!」
「大丈夫?」
「うん、大丈夫!毛玉どっちだっけ?ちょっと、教えて!」
息を切らせた少女は、あろうかとか私の手を引っ張り、強引にまた走り出した。
思いのほか引っ張る力が強く、私は言葉を発する前につられて走り出していた。
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