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それでつい、
「あー私なら大丈夫ですよ。お気づかいなく」
龍一に向けて、肩から提げたカメラをこれ見よがしに振ってやる。
「今回の撮影は、特に予定を決めているわけじゃありませんから」
「へえ、予定もなしに撮影ですか。偶然に頼るしかないなんて、余裕があるんですね」
「お陰さまで、私は運がいいんです。今回は美百合にも会えたし。きっといい被写体と出会えると思いますわ」
バチバチと、龍一との間に火花が散った気がするが、
「わーい、さくら、リビング行こう。話したいことがいっぱいあるの」
美百合は気がつかない。
さくらの腕を掴んで、ぐいぐい引っ張っていく。
「……もう、美百合ったら」
小学生のころとちっとも変わらない、無邪気な態度の美百合に、つい頬も緩む。
ふと視線を感じて振り返ったら、龍一が眼を細めて美百合を見ていた。
その眼差しは優しく温かい。
『……あの人、あんな顔もするんだ』
「さくらってば、早く」
「あ、うん」
有坂家のリビングは、薪がくべられた暖炉にクムシルクの絨毯。
それはそれは居心地の良い空間だった。
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