2.たくさんのびっくり箱

6/13
前へ
/69ページ
次へ
それでつい、 「あー私なら大丈夫ですよ。お気づかいなく」 龍一に向けて、肩から提げたカメラをこれ見よがしに振ってやる。 「今回の撮影は、特に予定を決めているわけじゃありませんから」 「へえ、予定もなしに撮影ですか。偶然に頼るしかないなんて、余裕があるんですね」 「お陰さまで、私は運がいいんです。今回は美百合にも会えたし。きっといい被写体と出会えると思いますわ」 バチバチと、龍一との間に火花が散った気がするが、 「わーい、さくら、リビング行こう。話したいことがいっぱいあるの」 美百合は気がつかない。 さくらの腕を掴んで、ぐいぐい引っ張っていく。 「……もう、美百合ったら」 小学生のころとちっとも変わらない、無邪気な態度の美百合に、つい頬も緩む。 ふと視線を感じて振り返ったら、龍一が眼を細めて美百合を見ていた。 その眼差しは優しく温かい。 『……あの人、あんな顔もするんだ』 「さくらってば、早く」 「あ、うん」 有坂家のリビングは、薪がくべられた暖炉にクムシルクの絨毯。 それはそれは居心地の良い空間だった。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加