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ダイニングには、鍋が煮えるグツグツという音だけが響く。
さくらが怒鳴ったあと、誰も何も言わない。
ちょっとその沈黙が怖くて、
「美百合はどうなの」
振り返ったら、
「……さくら」
美百合は何とも表現しづらい顔をしていた。
「美百合……」
笑っているような、泣いているような。
それでも、
「ありがとう、さくら」
という小さな声は聞こえる。
やっぱり、さくらの予感は正しかったのだと、改めて龍一を睨みつけるために視線を戻すと、
――カタン――
龍一は椅子から立ち上がる。
「――すまないが、失礼する」
前髪が邪魔をして、その顔は見えない。
さくらに背中を向けると、
「残念ながら今夜は送っていけない。良かったら、泊まっていくといい」
静かにダイニングから出ていった。
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