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美しいひとは振り向いて
白く塗り込めた空を指す
ちいさな水分のかたまりが
スローモーションで宙を舞う
ひさしぶりにみるゆきだねと
見上げる横顔は透き通り
はらはら落ちる雪片が
黒い髪の毛に降り積もる
美しいひとが微笑んで
手のひらにそれをすくいとる
時間が止まる
夢みたいな一瞬 ふたりの世界
粉雪 静けさ 薄桃色の唇
金縛りみたく動けない
耳の奥底でどくりどくり
不規則に鳴る心臓の音
美しいひとは空を仰いで
きれいなゆきがみれたねと
独り言のように囁いた
止まった時間が動き出す
再び歩きはじめた背中を見つめて
そして私は気づいてしまう
赤いマフラーを握りしめ
鼻の頭まで引き上げた
美しいひとが揺らす
私と同じプリーツスカート
遠ざかる紺が目に染みる
はじめて痛みを抱えた日
アスファルトに降りては消える
儚い粉雪みたいに
なかったことにすればいい
できるだろうかと胸に問う
美しいひとを追いかける
放課後の寒い大通り
きっとそれが正しいと
溶かして消した淡い恋
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