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「こんにちは、成藍くん。今日はつき指だって?」
「うん。バスケの試合中、リングにダンク決めた拍子にやっちまった」
蒼生の問いかけに、少年はくだんの指をこれ見よがしに差しだすと、病院に通うべき正当な理由を示す。何度も病院にくるなと注意されないための保険と思われる。
だが、元来あらゆることに無自覚な蒼生にとって、”疑う”といった当然ひとが具える心理を持ってはおらず、少年の手を自身の両の手でそっと挟み微笑む。
「そっか。すごいね、ダンクなんて。成藍くんは運動神経がいいんだね。僕はスポーツとか苦手だから、成藍くんのこと格好いいなって思うよ」
「うっ……そ、か」
頑是ない蒼生の褒め言葉が鼓膜を直撃した少年は、ぽそりとつぶやくと見るみる頬を薔薇色に染めてうつむく。
心なしか前屈みになっているのは、うつむいた加減だと思いたい。
「今日もひとりかな?」
「えっ?……あ、ああ、うん」
「えらいね成藍くんは」
「どうしてだ?」
「だってまだ小学生なのに、ひとりで病院に通って治療を受けているからね」
「ふつうは保護者と一緒に来るよ」と、蒼生は行動力のある少年を誉める。実際に母親と訪れたのは、蒼生が少年を家に送り届けた日を合わせても数回だ。
純粋な気持ちで少年を誉めたのだが、しかし少年は己を子ども扱いされたと面白くはない。そうとは思わない蒼生は、不愉快な少年の顔を見て指が痛いのだと勘違いした。
「ああ、ごめんね。指が温まって痛くなったかな」
少年の手を包み込んだままであったことに気づくと、慌てて離して謝る蒼生。だがすぐに少年の手が伸びると、離れた手を掴み今度は逆に包み込んでしまう。
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