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「なんだか、こうして歩いていると、僕ら恋人みたいだね」
「!っ――ああっ!?」
蒼生の発した唐突な言葉に仰天する風城。蒼生にしてみれば見たままを口にし、しかも深い意味などもたず表現したに過ぎない。
だが風城にとっては一大事。
幾度となく想いを伝えて尚、未だ蒼生には気づいてもらえないという、不憫な負け戦を味わってきたのだ。それを簡単に表現のひとつとして口にされては堪ったものではない。
斯くも無自覚とは残酷だった。その無自覚がふたたび口をひらく。
「ふふ。ごめんごめん。だってね、迎えに来てくれたり荷物を持ってくれたり、それってカップルや夫婦みたいなやり取りだなって」
「けど男に恋人みたいとか言われても不気味だよね」と、更に蒼生は恋する青年の胸をえぐるような科白を口にして、「成藍くんなら女の子は引く手あまただよね」と止めを刺す。
「チッ。女なんていねーよ。つか興味ねーし」
「そうなの? そんなにも格好いいのに。バスケが上手で背が高くて優しくて。それに男から見ても惚れ惚れするくらい、成藍くんはイケメンなんだから」
風城の顔を見ながらそう話す蒼生は、最後に「若いうちに恋愛を楽しまないと、僕みたいに年取ると出逢いがなくて後悔するよ」と締めくくる。
その言葉に偽りはなかった。父の許で働くという目標のため、日々をただがむしゃらに学んできた。ひとつ目標をクリアすれば、今度は科せられた責任を全うする日々だ。
気づけば恋らしい恋などしないまま、気づけば蒼生も三十八歳を迎えていた。
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