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もうすぐ四十路に手が届くという彼ではあるが、しかしどうしたことかそのおもては若々しく、およそ三十代後半とは思えない美貌を湛えた面容だ。
口になどしなければ、誰もが二十代と称する見た目を有する。
「……好きなやつならいるぜ」
「そうなの? なんだ、そっか。そうだよね、恋愛に興味がないはずがないよね」
「ほんと伝わんねーな」
「なにが?」
「いや、いい。もうすぐ十八だし。そんときゃ遠慮などしねえからな」
不思議そうに首をかしげる蒼生を俯瞰すると、風城はそれ以上を口にすることなく話を終えた。
だが熾火のように静かな炎を宿した瞳だけは、むしろ鎮火することなく雄弁に語っている、「あと一年で十年だ」と。
子供の言葉だからと深くは取らなかった蒼生。けれど風城にとっては一世一代の大告白だ。いくら大人が有耶無耶にしようと、つよく抱いた子供の感情は消えることはない。
ひとつ歳を迎えるたびに思ってきた。”はやく大きくなれ”、と。
それは歳を追うたびに、今度は”はやくでかくなれ”、そして”もっと強くなれ”と、意識は歳から身体づくりへと矛先を変え、強い男になろうと鍛錬を重ねるようになる。
それもこれも、幼い頃に蒼生と約束をした、でかくなって迎えにいくという自身の言葉を守るため。それから己がまだ幼く、ひとひとり守れない弱い自分を恥じたためだ。
できることなら自分が蒼生のそばをひと時も離れず、彼に好意を向ける不逞な輩から守ってやりたかった。想いだけはひと一倍あるのに、小さな身体ではそれも叶わない。
だからこそ風城は、好きなバスケ以外にもスポーツに没頭し、こうして今では蒼生を守り包み込める男となったのだ。
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