Karte.2 十年の時を超えた想い

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 女の子にモテる。いつかは彼も誰かのものとなって、蒼生の許を去ってゆく。そうすればもう、こんな時間を共有することも、一緒に食事をすることもなくなるのだ。  分かっている。それがふつうなのだ。  けれども納得しきれない何か、胸にさす(くら)い感情の奔流(ほんりゅう)にのまれそうになった蒼生は、そんな日が来なければいいと願ってしまう。  風城の頬に手を伸ばす。  そっと指に触れた彼は温かく、自身をつたい心のなかへと溶けていった。 「どうしたのかな僕。そんなこと思っちゃいけないのに」 「何を思うんだ」  ぽそりとつぶやいた言霊が、眠りにつく豹のまぶたをひらかせた。頬にあてた蒼生の手を透かさず大きな手が包み込むと、ゆっくりと逞しい体躯が持ち上がった。  まさか起きていたとは思わず、しかもこっそりと触れた手を取られ、驚きに蒼生の身体は跳ね上がる。どきどきと打ちつける心臓は性急で、よもや取り乱してしまいそうだ。  それをどうにか抑え込むと、思いつくかぎりを口にした。 「あっ、ひ、ひとり言だよ。そうだ、夕飯の仕度できたよ。成藍くんのリクエストしたハヤシライス」 「……ああ」 「じゃ、じゃあ僕、先にいって温め直してくるね」  彼の手から逃れると、平素をよそおい立ち上がった。けれど――― 「あっ」 「少しだけ――このままでいさせてくれ、お願いだ」  離れてゆく手をふたたび掴んだ風城は、自身へと引きよせ蒼生を胸のなかにとじ込める。まるで体格の違うふたつの器は、もともと添うように創られたかのように収まった。  いつのまに、こんなにも大きくなったのか。僕の身体を包み込むほどに成長して。  風城に抱きしめられながら、蒼生は時間の流れを再確認するとともに、なぜかほっとしている自分を発見する。それは欠けた心を補うかのよう、最後のパーツがはまった瞬間だった。 「じゃあ少しだけね」 「ああ」  背中に感じる風城の鼓動が心地いい。彼の腕のなかに収まる蒼生は、世界のあらゆるものに守られているかのような安心感を覚え、それと同時に甘やかな安らぎを味わうのだった。
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