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どれくらい眠っていたのだろうか。
ふと目が覚めた蒼生はそばに気配を感じると、視線を向け確かめる。たくましい肩、ひろい背中。ベッドに凭れあぐらをかく風城が、静かな寝息を立て眠っていた。
「成藍……」
首筋に手を伸ばしそっと触れる。体温の高い彼のそれを手のひらに感じ、蒼生の身体がじんじんと甘く疼いてゆく。ああもっと触れたい、彼のすべてを。
ゆっくり上体を持ち上げ彼の背に両手をつく。肩に頬を置き風城を肌に感じる。
どうしようもなく彼のことが好きだ。かつては患者のひとりに過ぎなかった、ふたまわりも違う若い男のことを。
風城の温もりを感じながら、自分の考えが許されないことくらい分かっていると、抱いてしまった想いを戒める。
世間からみれば親子ほどに離れたふたりに対し、どれだけ冷ややかな眼を向けられるかを考えると、ぎゅっと心臓を鷲掴まれたように痛む。
蒼生は自分に向けられる侮蔑が怖いのではない。風城に向けられる世間の悪意が怖いのだ。彼の人生はこれからだ、汚点など残してはいけない。
抱いてしまった想いは心の奥底に封印し、今この時だけ彼の一番近くを独占させてもらおう、そう蒼生は考えるのだった。
「千隼」
「――っ!」
不意に名を呼ばれ息を飲む蒼生。
頭から冷水を浴びたような、夢から覚め現実に引き戻されたような心境となり、慌てて風城から離れようとした。しかしそれよりもはやく、彼の手が蒼生の腕を取る。
「待てよ」
「あっ、あのっ、今のはっ」
「今日で俺、十八になったぜ。千隼が言った十年だ、俺のものになってもらうぞ」
「――っへ?」
気が動転して意味を成さない言い訳を口にする蒼生に、真剣な目を向け想いをぶつける風城。幼い日に抱いた想いを十年間も温め、やっとそれが叶うと疑わない目をしている。
だが蒼生には寝耳に水といったところで、文字通り目が点になった。
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