Karte.1 幼い心の純情と研修医

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「やはり蒼生くんは真面目だね。他の研修医など、これからどこに遊び行くかの算段で忙しいみたいだよ。きみはそういった輪には加わらないのかい?」 「はい。僕はひとつでも多くのスキルを身につけ、一日も早く父の許で働くことが目標ですので、それまでは遊びに費やすような時間などありません」  何ひとつ間違ったことも、ましてや可笑しなことを口にしたつもりはないが、蒼生の説明を耳にした木在はくつくつと笑い、ふるえる声でこう切り返す。 「ははは。ほんとうに真面目だね、蒼生くんは。だが時には息抜きも必要だ。どうだろう、予定がないのなら私と軽く呑みにいかないか」 「プレゼンテーションの内容なら、そのとき私が聞いてあげよう」と、蒼生が話に乗りやすいよう木在は誘い文句に飴を含めてきた。 「はあ、あの、でも……」  木在の誘いを渋る蒼生。けれど彼には、誘いを渋るだけの理由があった。  なぜなら蒼生はアルコールを摂取すると、生真面目な性格から一転、目を瞠るほど開放的な性格になってしまう。簡単にいうと”性的に淫奔(いんぽん)”となるのだ。  そのことは蒼生自身も知り得ることで、最後に(たが)が外れたのは大学在学中、数人と居酒屋で飲食をした後のことだ。  当時仲が良かった友達のひとり――いや三名と、ホテルにて快楽を貪ったという経緯がある。  いつもは真面目な蒼生の、色香を放つ艶めかしいすがたの虜となった三名は、その後もあの手この手と蒼生を誘っては酔わそうと奮闘した。  けれどしっかりと記憶の残る蒼生は、それ以来アルコールを口にはしていない。
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