Karte.1 幼い心の純情と研修医

5/12
前へ
/51ページ
次へ
 蒼生が「せっかくのお誘いですが」と口にしたところで、透かさず木在が「上司につき合うのも研修医の役目だよ」と断りを制し、馴れ馴れしくも腰に手を添え行動を促す。  と、そのときだ。どこに紛れ込んでいたのか、ひとりの少年が蒼生たちのまえに飛びだしてきたかと思えば、両の手をひろげ立ちはだかった。  そしてひと言、「その手を離せ!」と叫ぶ。 「あれ――成藍(せいらん)くん、どうして?」  驚きに目を瞠り蒼生がそう呼ぶのは、先ほどのどの痛みを訴え診察した少年だ。 「またきみか、風城(かざしろ)くん」  ため息まじりにそう話すのは木在。彼はうんざりしたような表情を浮かべると、蒼生には届かないほどの小さな声で、「やれやれナイトのお出ましか」とつぶやく。  どうやら木在と少年のあいだには因縁めいたものがただようが、それを蒼生が感じ取ることはなかった。  目のまえに現れた少年を見下ろし小首をかしげると、ふたたびどうしたのかと訳を問う。 「成藍くん。どうしてこんなところにいるの。お母さんは? もう夜も遅いのに、きっと心配しているよ。さあ僕に着いてきて。先に家の方に連絡をしようね」  そこまで話すと木在の腕から抜けだし、少年の背に手を当て先を促した。その際、蒼生は気がついてはいないが、少年は後ろをふり返り木在に向けしたり顔を送る。  それを見た木在は大人げもなく目をつり上げ、「あのガキ厄介だな」と吐き捨てた。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

230人が本棚に入れています
本棚に追加