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「……ごめんなさい。俺、先生に迷惑をかけるつもりはなかったんだ。ただ心配で……あおい先生を守りたくて、あいつ――あの男に」
「穢されないように」――最後の言葉は掠れるように小さくて、蒼生の耳には届かなかった。
「あの男? それって、もしかして木在先生かな」
そう当たりをつけ名前を出せば、少年は沈黙のまま首をたてに振る。それを感覚で察すると、今度は「どうして成藍くんは僕を守るのかな」と質問した。
「それは――それは……」
言い難いことなのか、それ以上が紡げない少年は言葉を切ると、つづいてむせるように咳き込む。
エアコンによる温風で身体が温まり、喋ることによりのどが刺激を受けたものと思われる。
「成藍くん。ほら、これを首に巻いて」
車をよせ停車すると、後部座席に置いてある私物よりマフラーを取り、それを少年の首に巻いてやる。そこで初めて蒼生は少年の顔に視線を向けた。
うつむき加減ではあるが、その表情はこわばっていて、頬は上気して具合は芳しくなさそうだ。
これは急いだ方がいいかと、ふたたび走行しようとまえを向いたところで、少年が思いがけない行動に出た。
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