0人が本棚に入れています
本棚に追加
1月8日。
僕がぶらぶらアテもなく散歩していた時のことだ。
「ねえ、ちょっと君」
そう声をかけられた。
最初は、その言葉が自分に対してのものだか分からなかった。
知り合いの声でもないからね。
でも、その辺りには、その時僕しかいなかったんだ。こりゃあ自分への言葉だよね。それ以外考えられないもの。
だから、聞き間違いかと思って通り過ぎようとした時に、「ねえってば」とさっきより少し大きな声で呼びかけられた時には、僕はもう声の主を見つけていたんだ。
「ん、どうしたの?」
その人は、街路樹の陰でいつからか立っていた男の子だったんだ。背が小さくてね、おかっぱみたいな髪型だったよ。
「あのさ、これ、要る?」
「え?」
「葉っぱ」
彼はね、ひょいと僕の側にやってきて、その一枚の葉っぱをくれたんだ。街路樹のね。
「え、…っと?」
「あげる」
「……ありがとう」
僕は人差し指と親指で素直に受け取ったんだ。拒絶する理由がないものね。あいにく街路樹アレルギーでもなかったし。
そしたら、その男の子は笑いながら僕の方を指差して、「それ、お年玉ね」って言うんだよ。
ちょっとまごついて、僕が「もう正月終わったと思うけど」と言ったらね、彼は後ろへ一歩下がって「ちょっと遅くなったけど、お年玉」なんて繰り返すんだよね。
だから僕は、「へぇ、そうなの」と返して、その葉っぱをもらったの。
そしたら少年は、「じゃあね」って言って、それっきり。
どこかに走って行っちゃった。
「……で?その葉っぱとやらは、どうしたの?」
俺は、机にぴったりくっつけた肘の上へ顔を乗せながら面倒臭そうに言った。
すると相手は顔を少し紅潮させながら「もちろん、まだ家に置いてあるよ。ちゃあんとね。…ちょっとシワついてきたから、もうじき茶色になって枯れるだろうけどさ」と呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!