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冷えきったコーヒーが今度は指先から温度を奪っているようだった。この街の冬は長く、暗く、冷たく、澄んでいる。
ふいに孤独の湖に波紋が広がる。
仕事もしているし、家族もいるし、君からもらったマフラーを巻いている。世間ではこれを孤独とは呼ばないだろう。
突然すべてに霧がかかったように遠く感じるのだ。本当は君など存在していないのではないか、祖父母のように先に逝ってしまうのではないか。
君の職場も、家も知っている。それでも、かけた電話に君が突然出なくなってしまったら、それで縁など切れてしまう気がする。
爪と皮膚の隙間から、孤独が浸透していく……核心に届きそうな頃に、ポケットに手を突っ込んだ。
「あ、ケータイ無い。」
気付けば景色など見ていなかった。冷たい空気の中、俯いて呼吸をしていただけだ。立ち上がりもう一度見渡す。
空は青く、遠く深く透き通っていた。
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