水底

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絵も、音楽も、映画も、美しく切ないものが好きな私は、よく賢そうに見られる。そんなイメージは嫌いじゃない。髪も染めていないし、短いスカートも着ない。派手なメイクも。 電車で本を読み、たまに外を物憂げに見つめるような女だ。そうありたいし、そう見られたい。 でも本当の私はそうじゃない。そうじゃないと思っている。 展示スペースから出て左側のカフェに入り、ホットコーヒーを注文する。壁は全面ガラス張りで表の公園が見渡せた。 公園と言っても遊具は無く、噴水と中央に丘があるだけの散歩コースといった感じだ。 しかしコーヒー一杯600円は高くないだろうか……家で飲むインスタントとの違いはわからない。 小さなカップの中身はすぐに無くなった。添えられたレモンの香りがする水を飲み干し、私は公園へ向かうことにした。
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