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きっかり一万円を手にして、私は川土手へと急いだ。 そこへ着く頃には息が切れてしまって、一旦膝に手をつき、ひゅうひゅうという呼吸を整える。 ………いた。川岸の、ずっと向こうに。 あの見るからに怪しげな黒服の男だ。何とか間に合った。 地べたに腰を下ろして、ゆったりと煙草をふかしている。 ただ川へ気まぐれにやって来ただけのような風貌に苦笑いしながら、私は階段を降り始めた。 すると、あちらも気がついたようで、こっちを見ると、その茶色の歯をいっぱいに見せながら、「……おぅ。来たのか」と言った。 それに対して、私は頷きで応える。 近づいていくと、彼はすぐに右手を突き出して、「金を出しな」と唸るように言った。脅しているようでもある。 私はすぐにポケットのうちから一万円札を取り出して、シワを伸ばしながらその手のひらへ置いた。 「………ふん」 男の体から、臭い匂いがするが、これくらいは我慢しようと思った。 彼は、ボサボサの髪を掻き上げ、パチパチとその札を指で弾いたり、風にペラペラ流したりしてじっくり見極めた後、チラリとこっちへ目をやり、「……あんた馬鹿だな?」と呟いた。 「信用して来たんです」 私は直立してはっきり答える。 するとその男は「俺はテキ屋だぜ?テキ屋っつーのはよぉ、何でもないゴミを、さも高価で魅力ある物品だと見せかける職業だ。それを分かってるのかぁ?」とゲラゲラ笑った。 その口から、強烈な匂いが鼻を突いてくるのを感じながら、私は「確かにあなた、不審な格好をしていますよね。立派な職業ではないようです」と返す。 その時は、握り拳に力が入るくらい、緊張した。 が、その男は急に怒り出したりはせずに、依然として笑うばかりだったので、少し安心する。 「へへへ。それならお前はどうしてその不審な人間を相手に一万円なんてカネを注ぎ込もうと思ったのかなぁ」 「それは」 私はここで言葉を区切り、間を空けた。 実のところ、何と言おうか迷っていたのだ。 理由なんてそもそも話す必要もないだろう。買いたいと思ったからここへ来たのだ。 「お年玉です」 だが、私は結局一言、そう語った。 風が通り掠め、枯れ草が揺れていく。 「お年玉だぁ?………へへ、やっぱそうかい。正月明けってのはよぅ、ガキの懐もあったけぇってもんだろ。だから俺は今売りに出てんだ」 「そう、ですか」
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