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結局武蔵は、中野さんの心情も考慮し、被害届は出さない事に渋々ながら同意した。
こうして俺たちのキャンプは、思わぬ事件で幕を閉じた。最悪の夏休みだったかもしれない。
長い一日がようやく終わっての帰り道は、助手席に柏木、二列目に中野さんと長谷部、後部席にフキと武蔵が乗り、俺が都内まで運転することになった。
武蔵は早々に病院で処方された痛み止めが切れてきて、痛い痛いとわめいていたが、それをフキが上手くなだめていた。
「フキちゃんに側にいてもらえるなんて、俺は幸せだなあ」
武蔵の心の調子はそこそこ元に戻ってきた様子で、俺は少しだけ安心した。うるさくない武蔵など、武蔵ではない。
「武蔵くん、ありがとね。武蔵くんが刺されないと他の誰かが刺されてた」
フキは、武蔵にとってありがたいのかありがたくないのかわからない言葉をかけていた。
それもなんとなくフキらしい。
そのフキの声が運転席まで聞こえてきて、俺と柏木は声を上げずに笑った。
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