5. 三日月

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 フキは俺から目を逸らしたまま、小さな声でつぶやいた。 「弟が……」 「え? 弟?」  たしかフキは一人っ子だと聞いていたが、弟とは…… 「母親がさ、この前産んだんだ」 「は?」  その言葉に俺は頭が混乱した。 ーーフキに弟ができた……? 「フキの母親って何歳なんだ?」 「四十歳。私を二十歳(はたち)で産んでる」 「あ、ありえるか。おめでとう」  俺は何も考えずにそう伝えた。それに対してフキは、逸らしていた目を俺に向け、口許を歪ませた。 「おめでとうじゃないよ! これで私、さらに孤立しちゃうわ、家でさ」 「あ……」  今日のフキは箸が進まない。 「そういえば前に言ってたよな。一週間家出しても親は何も言わないとか」 「だってあの人達は私に関心ないもの」  以前聞いたことと同じ事をフキはまた言った。 「もともと私になんか関心ないのに、弟が生まれたんだよ。さらに無関心になるよね」  フキはボソボソとつぶやいた。  そんなときでもフキは綺麗だと、俺は不謹慎にも思いながら彼女を見つめた。
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