第1章 私を本気にさせた悲しい出来事

10/32
前へ
/32ページ
次へ
「ちょっと、ババァなんて、失礼じゃないですかっ」 野次を飛ばした後ろの方の男性客を睨みながら、大声で言い返した。 「きっ木原さん、どうしましょ」 5番レジ係男子大学生 湯浅 守20歳は引きつった顔で木原 愛を思わず凝視した。 男性客に売られた喧嘩を買ったのは ベテラン買い物客ではなく、木原 愛だった。 「従業員のくせに客に対してなんだ、お前なんかじゃ話にならん。責任者呼べ」 50代半ばといったところの男性客の怒りの流れ弾が木原 愛へ命中した。 「かしこまりました。お並びのお客様がいらっしゃいますので、恐れ入りますが、お客様こちらにお越しください」 大声で男性客に呼びかける愛。言い方は丁寧だが、愛は心の中で 「望むところじゃ、やったろうやないか。こっち来いや。おっさん」 と、だんじり祭りとねぶた祭りが同時開催中のごとく、熱く煮えたぎっていた。 トラブルのきっかけを作ったベテラン買い物客に対しても 「お客様、すみませんが、サービスカウンターでお伺い致します。カゴをお預かりします」 3分前までの財布を落とした深刻顔から一転、今や、だんじりの上でハネトを踊る愛にとって怖いものはない。毅然とした態度でそう宣言すると、次で並んでいるお客たちに 「おまたせいたしました」 丁寧に頭を下げて、呆然としている湯浅に 「レジお願いします」 と言い残して、二人の厄介な客を引き連れてサービスカウンターに向かった。 サービスカウンター前で男性客が 「だいたい、あんたがわけわからんことレジの子に怒るからやろ。めんどくさい」 ベテラン買い物客はかおを真っ赤にして怒り出した 「怒ってませんよ。人をクレーマー呼ばわりしないでください」 「ちょっと待ってください。お客様何があったのですか」 愛は冷静さを取り戻して、ゆっくりとした口調で問いかけた。 「このクーポン使えないって言うのよ。前は使えたのよ。おかしいでしょ」 愛はハッとした。忙しさと男性客からの野次騒動でよく顔を見ていなかったが、グーグル検索 三週間前 課長 クーポン 文句女 だ。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加