第1章 私を本気にさせた悲しい出来事

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「真美ちゃんこれなんだけど」 愛がスマホのテラス写真を見せた。 「これなオープンハウスの時のなんだけど。このガラス乗り越えて落ちるの大変よ」 広々としたテラスにお洒落なテーブルセット。転落防止のためにガラスの高さは愛の身長ぐらいある。160センチだろう。 「本当ですね。高いなぁ。でも、なんでこの写真、愛さんマンション買うつもりで、あっ、100円のお弁当でお金貯めて、えええーマンション買うんですか」 「んなわけないでしょ。私ら時給いくらよ。このマンション億ションよ。飲まず食わずで給料全部貯金しても70年かかるわ。あーーー悲しくなる。目の保養に行っただけ。オープンハウス巡りは私の趣味なの」 「ですよね」 お金の話でシビアな現実を目の当たりにした二人は無言でのど飴を転がしていた。 「ていうことは、三国雪乃さんは有名ジュエリーショップのオーナーで、豪華億ションに一人暮らしで、すんごいお金持ちだったんですね。ここのランチ食べたことなかったんでしょうね」 さっきまで大満足のランチだったのに急に虚しさが押し寄せてくる真美。 「ここのランチを食べたことがないのは、私と同じね」 愛は澄まし顔で答えた。 負け惜しみなのはわかっている。愛がランチを食べないのは自炊すると昼食代100円で済むからだ。三国雪乃との共通項は一つもない。 二人は2個目の、のど飴を口にほりこんだ。
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