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目覚めるとそこは屋外階段の踊り場だった。
そしてゲロだらけの俺がいた。
ああ、俺、衝動で死ぬとか出来ないんだな。
ビルの隙間に朝日が見える。
ゲロは冷たいが体はまだ暖かかった。生きていた。
俺の人生の分岐点は父ちゃんが婆ちゃんに出刃包向けてたあの日。よくある話、他人同士の暮らしで、上手くいかないやつ。ただよくなかった話は、母ちゃんも姉ちゃんも誰も助ける人間がいなかったこと。家でギャーギャー叫び声上げてるやつがいる中で止めるやつがいない。父ちゃんはあげく婆ちゃんと車で海に突っ込んで死にに行くって言ったんだ。父ちゃんは目を剥き出して、婆ちゃんは俯いて小さくなってた。
夕暮れの階段下の湿った暗い廊下。小学生のただのガキだった俺だよ?包丁振り回してる人間を止める役なんてあまりに重役過ぎるだろ。でも、止めるしかなかった。泣きながら止めに入ったんだ。俺しかいなかった、俺しかいなかったんだ、頼りになるやつは。
あれ以来、俺はなんとなく人間に対する不信感を育てていってしまった。種みたいなのがまだ柔らかいふかふかの心の土、奥深くに落ちた。子供の時はまだ大丈夫だったけど、大人になった今、大きく芽吹いてしまった。
ひどく心が不安定。だから昨日、酒にも何にも手出さず気分転換すんだって、いつもの、いつもの最後の力、振り絞って入ったカフェで店員に素っ気なくされただけで、というかそんな気がしただけで、それだけで、身が持たなかった。
世の中うまくいかないもんだな。
あきれるくらい一人なんだ、俺。
俺、ここの階段の踊り場で酒飲んで訳分かんないくらい酔っ払っちゃえば、この前の柵の向こう、一歩踏み出すのかと思ってた。
俺、死にたくは、ないんだな。
朝日はいつの間にやら頭のてっぺんを照らしていた。
男はくるりと向きを変え、後ろへ立ちあがり、地、ある方へ進む。
この男の生涯は意外と幸せなものだったのだ。
階段の踊り場の君よ、死んではいけない。
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