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現と虚は二人並んでスタイリングチェアに座っていた。眼前の鏡が無愛想な顔を映し出す。
ここは双子行きつけのヘアサロン。南国風の店内には双子の知らない曲が流れている。数年前に流行った曲のようだが、世俗的な物事に疎い双子には分からない。
「双石ちゃんたち。たまには違う髪型にしてみないかしら」
派手なメイクを施した美容師が語り掛ける。細身で背が高く理想的なプロポーションをしている。髪をクリーム色に染め上げポニーテールを作っている。
「ほら、髪を染めてみたり、カットの仕方を変えてみたり、あなたたちならどんなのでも似合うと思うわよ。なんたって元がいいんだから」
ねっとりとした口調。肩に触れるか触れないかくらいまで伸びた二人の髪を弄ぶ。
「ねぇ、どうかしら?」
ハスキィな声で囁く。整髪料の匂いが鼻を衝く。
「店長、双子ちゃん嫌がってるじゃないですか」掃き掃除をしていた蒼髪の従業員が口を出す。
「ゴメンね、双子ちゃん。店長の言うことは気にしないで。この人、ただの構いたがりのオカマだから」
「うるさいわね。オカマじゃないわよ、オネエと言いなさい」
スタイルもよく整った顔立ちをしているが店長の性別は男性だ。本名は湯座空蔵。多少名の知れたカリスマ美容師でもある。
「いつもと同じくらいでお願いします」現が応える。
「分かったわ……ほら、ツワブキ早く準備なさい。いつまで掃除してるの」
「へいへい」蒼髪の青年――石蕗はちゃくちゃくと準備を進める。
双子の髪を洗い、クロスを巻き付ける。背が低いので、椅子を目一杯高く上げられる。
「それじゃあ、カットしちゃうわね」
一時間ほどで双子はミディアムからショートヘアになった。
「さて、どうかしら。オーダー通りよ」
いじりがいのない仕事だったであろうに、顔には出していないが不服だろう。しかし、それでも完璧にこなすのはカリスマ故だろうか。
双子はお互いに顔を合わせる。
同じ顔が二つ。
同じ髪型が二つ。
「うん。悪くない」ダウナーに現が言う。
「ありがとう、ユザさん」虚が言う。いつも気怠げな彼女も心なしか嬉しそうだ。
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