chap.1 現と虚

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「良い夢見てたのに」虚は不貞腐る。 「どんな夢だったの?」現が尋ねる。 「えっとね、ウツツが出てきた。内容は覚えてない」 「それは……いい夢かどうか分からないんじゃないかな」 「ウツツが出てきたから良い夢だよ」 「そうなんだ」  現は夢を見ない。眠っているときでさえ。  対して虚は夢を見る。内容はすぐに忘れてしまうけど、覚えているときは夢日記をつけている。  洗面台の鏡にはグレーのパジャマを着た二人の姿が映っている。鏡に映る二人は大学生とは思えないような幼い容姿をしていた。精々中学生くらいにしか見えない。  そして鏡の中の二人はとてもよく似ていた。  性別を除けば、体格から顔立ち、髪型さえも生き写しのようにそっくり。まるでドッペルゲンガー。 「ウツロ、先に顔洗っていいよ」広い部屋だが、洗面所の蛇口は一つしかないので妹に譲る。 「ありがと」  虚は蛇口から溢れる水を掬うとぱしゃりと顔にかけた。ホイップクリームのような泡で顔を洗い、数度繰り返し顔をあげると、前髪からも水滴が滴る。 「すっきりした?」 「うん」  濡れた顔をタオルで拭くと、半開きだった瞳をぱっちりと開いて化粧気のない顔で答える。  現も虚と同じように顔を洗い、彼女から手渡されたタオルで顔を拭く。髭も生えていないので朝の身支度は簡素に済ます。
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