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現には悩みがある。
それは自分の身長。成人男性の平均よりもはるかに低い――150㎝。さらに童顔も相まって、一目で大学生だと気づいて貰えない。中学生と間違われるのならいざ知らず、稀に小学生と間違われることもある。最近の子供は成長が早い。
確かに二人とも実年齢よりも言動が幼いところがある。二十歳を過ぎたのにも関わらず、未だ互いに離れようとしない。傍にいないと落ち着かない。出来る限り一緒にいようとする。そんな二人が幼子に見えてしまうのも無理がない。
大学に入るまでは友達はほとんどいなかったし、入ってからも外向的な性格にはならなかった。悲しいことに同級生たちにさえ年下のように扱われている。良く言えば優しくされており、悪く言えば距離を置かれているのだ。
だがしかし、そんなことは身長が低いこととは何の因果関係もない。高い場所にあるものを取れないし、コンビニでお酒が買い辛いし、外で煙草を吸えば職質される。生きづらいご時世だ。中性的な顔立ちなのでメンズファッションも似合わない。デメリットだらけだ。
可愛らしいとよく言われるが、それは成人男性に対してなんの誉め言葉じゃない。罵倒だ。女子大生の「可愛い」というセリフが何よりも嫌いだった。ただし虚は除く。
講義室の机の上で腕を組み、空白の教壇を眺めながら考えていた。講義が始まる五分前の教室。この授業の講師はギリギリになるまで入室してこない。だから皆、休み時間に口々に談話している。騒々しい。現は騒がしいのは苦手だ。思考に雑念が入るから。
考えていたら、胸の中がモヤモヤする。タバコが吸いたくなった。
胸ポケットにしまってあるタバコケースに目をやるが、校内では禁煙だ。仕方ないので我慢する。
横を見やると、ヘッドホンを付けた虚がノートに落書きをしている。何のキャラクターなのか分からないので、恐らく虚の考えたキャラクターなのだろう。現は芸術面には関心がない。
「うつつ、耳赤くなってる。また何か考え事?」視線に気付いた虚がヘッドホンを外して尋ねる。
「別に詰まらないことだよ。詰まらない……ちっぽけな悩みさ」
ちっぽけな自分がまったく嫌になる。虚はそうは思わないのだろうか。
男女の差か。女子である虚はそこまで気にしたことはなさそうだ。女性の平均身長を見ても、虚は多少低いくらいだ。
「ねえ、何考えてたの?」ノートに落書きする手を止めて虚が尋ねる。イラストを描くよりも現の方に興味が移ったのだろう。
「あぁ……あっ。うつろ、もうすぐ授業が始まるよ。後で教えてあげるから」ダウナー気味に現が言う。
授業開始のチャイムの音が聞こえる。
「うーん、分かった」気だるげに虚が応える。
虚がノートを閉じると同時に教室前部の扉が開いた。同時に騒がしかった教室が静寂へと変わり、所定の位置に帰す。
教授が教壇に立つと、全ての視線がそちらに向いた。
教授が一度咳払いすると、今日の講義が始まった。
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