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授業は恙なく終わった。チャイムとともに講師は教室を去り、それに続くように生徒たちは銘々と席を立つ。午前中の授業は終わり、今頃食堂には学生たちがなだれ込んでいるだろう。
双子は御揃いの斜め掛け鞄に教科書を詰め、退出の準備をする。
「よっ、お二人さん」
気の抜けた声と共に二人の間に大きな腕が割り込んで肩を組んだ。振り向くとそこには背の高い気さくそうな青年が立っていた。
「「キクチー」」双子が声を揃えて呼んだ。
「はもるなよ。君ら背が低いから探すの苦労したよ」
キクチーこと、菊池誠華(せいが)。はにかんだ笑顔が眩しい好青年だ。身長差がかなりあるためそうは見えないが、双子とは同い年である。
「背が低くても見つけられるでしょ。キクチー、どうせ遅れてきたんでしょ」不機嫌そうに言う現。
「へへっ、ばれてたか。えっと、うつつ」菊池は爽やかな笑顔を見せる。だが、双子のどっちかを言い当てるのに三秒ほどかかった。
「もう一年以上いるんだから、すぐに見分けてよ」冷たい口調。不機嫌なのを隠す気がない。
「そうはいうけどさ。髪型も同じだし、服もペアルックだし、声も似ているしで、どっちがどっちかなんて分かんないんだって。ヤマトシジミとルリシジミを見分けるみたいなもんだぜ」
「シジミって貝の仲間の?」虚が尋ねる。
「そのシジミじゃない。俺が言ったのは蝶々のシジミ。まあ、語源は貝の方が先だけど」
現も虚も虫取りをしたことがなかったので、ピンと来ていない。
「まあ、いいや。今度詳しく教えてやるよ。それより、昼飯食いに行こうぜ」
「別に私は構わないよ」
「僕も構わないけど……それよりいい加減肩から腕どけて」
菊池はずっと前屈みの姿勢で会話をしていた。
「おっと悪い悪い」肩を組んでいた腕を解く。
気が付けば教室に残っているのは三人だけになっていた。
「よしっ、じゃあ行こうぜ」
扉に向かう菊池の後ろを双子は二人並んで歩く。自由奔放と言葉が似あう飄々とした青年だが、双子と普通に接してくれる数少ない友人だ。
「ずっと体勢低くしてたから腰が痛いぜ」菊池が腰を押さえて言った。
それは自分たちに対する嫌味か、と現は思ったが口にするのも億劫だったので黙っていた。
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