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海月みくり(かいづき みくり)、愛称くらげ。只今絶賛片想い中です。
「渡ー。おはよう!」
お相手はこの方。渡耕太(わたり こうた)。温暖化も心配される暑さを吹き飛ばす勢いと笑顔で、私は今朝も渡に抱きつく。だけど、
「はい、おはよー。」
渡は素っ気なく返すだけ。私を腕に絡ませたまま、慣れた足取りで自分の席へと進んでいく。
「懲りねぇなぁ、くらげ~。」
「『くらげ』じゃないもん!『かいづき』だよー!」
「でも二人のこのやり取り見なきゃA組の朝は来ないよねぇ。」
クラスメイトの三谷(みたに)くんに、南條(なんじょう)ちゃん。
そう、私は渡が好き。4月の、新入生代表の挨拶をするその姿に、スッと伸びた背筋に、長い指先に、つれないくせに私が困ってると助けてくれたり…あげだしたらキリがない。
私は渡が好き。でも…
「海月さん、またやってるよ。」
「ねー、彼女ちゃんかわいそー。」
そう、渡には中学3年生の彼女がいる。渡が中学を卒業する時に告白して…そのまま。恋が成就したと言うわけらしい。
だがしかし、ここは高校。彼女はいないわけで、この現場を目撃されるわけでもないわけで…
「ねー、渡ー。今日お昼ご飯一緒に食べよう~。」
「毎日一緒に食ってんじゃん。てか、なんか気づいたら横にいるじゃん。」
「えへへ~、今日も渡のにおいがする~。」
「聞いてる?人の話。」
私は好き放題しています。だって私たちは“友達”だから。
或る日の帰り道、私は何気なしに渡に告白した。
「ねー、渡。」
「何?」
「好き。」
「知ってる。」
「あ!でもね、待って!勘違いしないで!」
「?」
「私は、渡と一生、友達でいたいんだよ。だから、彼女と別れて欲しいとか、そんな図々しいこと思ってないから。」
「ふーん。」
「でもさ、好きなこと?私の好意は知っててよ。」
「わかった。」
渡は賢い。同時にずる賢くもある。私の相手をするのが面倒なだけだったのかもしれない。渡は、私の提案を素直に聞き入れてくれた。
毎朝恒例のいちゃいちゃ懐きタイムも終わり…今日の3、4時間目は美術の授業。
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