海月は海水が無いと生きられない。

3/8
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「~っ、で、何でここにいるわけ?」 「え?だって好きなものを描けって、先生が。」 「くらげ~、お前顔は可愛いのにもったいねぇよ?」 気怠げに、描くことを放棄して紙パックのジュースを飲んでいる三谷くんに、 「聞いた!?渡!可愛いだって!」 「あ~そりゃそりゃ、良かったねぇ。」 「もーうっ!つれない!つれなさ過ぎる!」 「ちょっ、絵の具飛ぶからマジやめて。」 「本当、くらげちゃんに渡くん。二人で一組だよねぇ。」 クスクスと微笑ましそうに笑ってくれる南條ちゃん。 「ねぇ!聞いた!?渡!」 「はいはい、聞こえてるよー。良かったねー。」 私は、知っている。新入生代表で挨拶をしたその人が、その日の帰り道、土砂降りの雨の中。段ボール箱にいれられた子猫に傘を差し伸べたことを…。 渡は傘を置くと走って行ってしまったから、私がいたことには気づいていないんだろう。だから、私だけが知っている彼の優しさ。…秘め事だ。 (…彼女も知ってるのかな。) そう思うと矢庭にお腹のあたりがむずむずしたので、考えることをやめることにした。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!