2.

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   違う。 きっとこの若者の目的は、王や集う人々が抱いた単純な物語ではない。 ビリビリと伝わる怒りは、どういうわけか親愛を伴い、絡まり合って大渦となっている。 身体には収まりきらぬ想いが若者を苦悩させている。 「……オネット」 「………」 「オネットよ!」 不意にかけられた呼び掛けに、オネットは驚き顔を上げた。 気が付くと全ての民が自分を仰ぎ見ていた。 咄嗟にアランを窺うと、同じ様にこちらを見据えている。 その双眼に、オネットの心は激しく揺れた。 「オネットよ。執鋭のドラゴン=シールダーに祝福と宣言を」 「な、なぜ私が? それはお父様の役目では……」 「我が国始まって以来の歴史的偉業だ。そなたに譲ろう」 「なにを仰って……」 「姫様。遠慮なさらず、アラン殿の試練を許可し、祝福を授けられよ。さすればついに、我が国が封印せし黒竜ジルニトラへの扉が放たれます」 傍らの司祭が耳打ちする。 旅人や商人への祝福とは話が違うと言うのに。そのような大任を娘に譲る、父の意向が計り知れない。 コシュールが丁重に差し出した聖水と聖木の葉、古代紫色の布に載った黄金の鍵を、オネットは意を決して受け取った。 階段をゆっくり下り、アランの前に降り立つ。 「……ドラゴン=シールダー、アランよ。そこへ」 アランは黙ってひざまずいた。 聖水にオークの葉を浸し、アランの黒檀の髪にそっとかざす。 「……アラン。あなたに、ひとつ聞きたいことがあります」 祝福の直前、オネットは声を潜めてアランの耳元に囁いた。 「あなたは先程、王の問いに何と答えるつもりだったの?」 アランは怪訝に顔を上げた。 「ドラゴン=シールダーとなった目的は、世界の安寧を背負うため……?」 「世界など関係ありません」 迷いなき言葉がオネットに真っ直ぐ届いた。 その時。 謁見の間が微かに震えた。  
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