84人が本棚に入れています
本棚に追加
/442ページ
山脈から下る強風が、男の髪をなぶる。
その傍らに控えた女は、右手に持った短剣を弄んでいた。
男が足元を見下ろす目は、まるで害虫の死骸を映すかのように冷ややかだ。
「何撃だった?」
木っ端微塵に砕け散った石の塊を右手につまみ上げ、じりじりと握り潰して土に戻す。
「七撃かしら。術を破ったというより、砕いたついでに術が破れたって感じ。本人も最初からそのつもりだったんでしょう。術なんてどうでもいい。要は、再起不能にってね」
「俺とは違って賢さが足りないんだろう。力任せが過ぎる」
「全然似てないのね、あんた達」
「まあな」
風吹の去った岩肌は、すっかり静けさを取り戻していた。
自分が操っていたゴーレムと、ドラゴン=シールダーとの闘いを、すぐ近場で窺っていたのだが。
思いの外早くついた決着に、男は血のざわつきを覚えていた。
「あの子、完璧に独りで闘ってたわね。仲間のソーサレスの使えないこと! もう一人はあの女を庇うばかりで、あの子は孤軍奮闘よ」
「そうさせたのはあいつ自身だろう。今までの闘いも、同じようなものだ。気質の問題だから仕方がない」
「気質ね……」
女はそう呟いて、男の横顔を見つめた。
どうでもいい。
彼らの関係など、私にはどうでもいい。
この男に付いていくと決めたのは、誰あろう私自身の強い意思だ。
魂が、そう決めたのだから。
「行くぞ、時間がない。謁見はもう始まっているはずだ。間に合わなければ面倒だぞ」
「分かってるわ」
軽く頷いてマナを集めた。
「……慈愛に満ちた母なる大地の精霊よ、我らが足を御霊と繋ぐその鎖の鍵を解放せよ……」
次第に浮き上がる身体に、更なるマナを引き寄せる。
「飛ぶわよ、ハルスバードへ」
巻き起こった風と共に、二人の身体は飛び去った。
最初のコメントを投稿しよう!