3.

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    山脈から下る強風が、男の髪をなぶる。 その傍らに控えた女は、右手に持った短剣を弄んでいた。 男が足元を見下ろす目は、まるで害虫の死骸を映すかのように冷ややかだ。 「何撃だった?」 木っ端微塵に砕け散った石の塊を右手につまみ上げ、じりじりと握り潰して土に戻す。 「七撃かしら。術を破ったというより、砕いたついでに術が破れたって感じ。本人も最初からそのつもりだったんでしょう。術なんてどうでもいい。要は、再起不能にってね」 「俺とは違って賢さが足りないんだろう。力任せが過ぎる」 「全然似てないのね、あんた達」 「まあな」 風吹の去った岩肌は、すっかり静けさを取り戻していた。 自分が操っていたゴーレムと、ドラゴン=シールダーとの闘いを、すぐ近場で窺っていたのだが。 思いの外早くついた決着に、男は血のざわつきを覚えていた。 「あの子、完璧に独りで闘ってたわね。仲間のソーサレスの使えないこと! もう一人はあの女を庇うばかりで、あの子は孤軍奮闘よ」 「そうさせたのはあいつ自身だろう。今までの闘いも、同じようなものだ。気質の問題だから仕方がない」 「気質ね……」 女はそう呟いて、男の横顔を見つめた。 どうでもいい。 彼らの関係など、私にはどうでもいい。 この男に付いていくと決めたのは、誰あろう私自身の強い意思だ。 魂が、そう決めたのだから。 「行くぞ、時間がない。謁見はもう始まっているはずだ。間に合わなければ面倒だぞ」 「分かってるわ」 軽く頷いてマナを集めた。 「……慈愛に満ちた母なる大地の精霊よ、我らが足を御霊と繋ぐその鎖の鍵を解放せよ……」 次第に浮き上がる身体に、更なるマナを引き寄せる。 「飛ぶわよ、ハルスバードへ」 巻き起こった風と共に、二人の身体は飛び去った。  
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