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  アランの背中に素早く右手を伸ばし、ダンクスが声を低くする。 「何をする気だ?」 「道を聞くんだ。あれだけ詳しいのなら、近道の一つでも知ってるだろ」 「……」 黒檀(こくたん)の瞳を真っ直ぐに見つめても、そこには言葉以外の何物も含まれていないことが、ダンクスには分かる。 含まれていれば、嫌でも分かるという事を知っている。 もう止めはしないと、右手を下ろした。 「ハルスバードへの道は、ここから遠い?」 アランが声を掛けたのは、赤顔の中年だった。 自分の舌を止める原因となった飲み仲間から、のっそりとアランへ首を(よじ)る。 錆び付いた歯車が難儀に動くかのようだ。 アランを足先から頭部までのっぺり舐めるように観察した後、半ばまで伏せかかった目を、更に細くした。 「なんだぁ、小僧。お前さんのような若僧が、ハルスバードに何の用だぁ? あすこはなぁ、聡明なドルイドの聖地だ。お前さんがドルイドの教義を修得するのに何年かかるだろうなぁ? 生きてるうちに叶えば……」 「北回りで行くと、カンザニフス山脈を越えることになる。南回りだと、砂漠だ。俺達が持っている地図によると、どっちの道筋も距離はさほど変わりないと思う」 「……あ、あぁ? まあ、そうだわなぁ」 赤顔は首を小刻みに縦へ振った。 「距離に変わりがないのなら、険しさで決めるしかない」 「そりゃぁおめぇ、砂漠は過酷だぞ」 椅子に片膝を立てて億劫そうに果実をかじっていた男が、ゆらゆらと首を左右に降った。 「砂漠は簡単には越えられん。それなりの蓄えが必要だ。しかも灼熱と極寒を共に持っていやがる。暑い暑いと文句を垂れてりゃ、夜にはブルブル鼻水垂らして凍え死にだ。それに、砂塵もある。砂嵐に巻き込まれでもすりゃ、たちまち方角を見失なっちまう」 「なるほど」 アランは腕組みし、次にはテーブルに居並ぶ三人の顔を眺めた。 「ならば北回りがいいんだな」 赤顔を含めた三人は、互いに顔を見合わせて首を傾げ、唸りとも鼻息とも分別出来ぬ息をつく。 無遠慮に宴を侵害した青年に難を示すどころか、促されるままハルスバードまでの道程に頭を捻る男達が、ダンクスには滑稽に映る。 がしかし、それもいつもの流れだと、ダンクスは威勢良く立ち上がってアランの傍らに寄った。
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