1.

4/6
前へ
/442ページ
次へ
「カンザニフス山脈か砂漠か」 「山脈だ」 「そうだ、北回りがいい」 「今はハルスバードの勢力が安定しとるから、山賊も出やしまい」 「分かった」 「しかし、噂通りだとすれば、お前さんらは大変な時期にハルスバードへ入ることになりゃぁせんか?」 「というと?」 ダンクスは問い返す。 立ち去ろうとしたアランの足も、静かに止まった。 「執鋭のドラゴン=シールダーだよ。あの噂が本当なら、城も街もお祭り騒ぎになるだろうさ。お前さんらのような異邦人は、入国が難しくなるかもなぁ」 「肝に命じておこう」 アランが短く答えてダンクスを促し、二人は礼を述べて商館を後にした。 今となっては、アランを呪うべきなのか、商館の商人達を呪うべきなのか、肺までもが凍り付きそうな猛吹雪に遠退く意識を、何としてでも繋ぎ止めようとダンクスは歯を食い縛っていた。 山道に差し掛かった辺りまでは、食料となる果樹に鳥が囀ずり、跳ねた川魚の目映い煌めきに目を細め、足取りも快調だった。 やがて勾配が激しくなるにつれ、視界から徐々に木々が消えた。 植物が失せると、生物の気配も消えた。 土を踏みしめていた鉄のサバトンは、次第にゴツゴツとした岩肌を迎えた。 頭上の装いも不吉に蠢き、青から灰へと転換した。 そして気が付けば、前後左右の見境が無くなっていた。 「おい!! みんな無事かっ?!!」 ダンクスは再び声を張る。 既にはぐれたのだろうか。 いや。自分が正しい方角へ進んでいるのかさえ怪しい。 もしやはぐれたのは自分で、仲間はまだ青空の元、自分の行方を探しているのかも知れないとも思えてきた。 ダンクスは初めてサバトンを止めた。 僅かの躊躇の後、直ぐ様頭を振って一歩踏み出した。 迷っていてはいけない。前に進まねば変化は訪れない。 全身全霊を奮い起たせ、更に一歩を進むべくサバトンを抜いた、その時だった。 吹雪が止んだ。  
/442ページ

最初のコメントを投稿しよう!

84人が本棚に入れています
本棚に追加