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「カンザニフス山脈か砂漠か」
「山脈だ」
「そうだ、北回りがいい」
「今はハルスバードの勢力が安定しとるから、山賊も出やしまい」
「分かった」
「しかし、噂通りだとすれば、お前さんらは大変な時期にハルスバードへ入ることになりゃぁせんか?」
「というと?」
ダンクスは問い返す。
立ち去ろうとしたアランの足も、静かに止まった。
「執鋭のドラゴン=シールダーだよ。あの噂が本当なら、城も街もお祭り騒ぎになるだろうさ。お前さんらのような異邦人は、入国が難しくなるかもなぁ」
「肝に命じておこう」
アランが短く答えてダンクスを促し、二人は礼を述べて商館を後にした。
今となっては、アランを呪うべきなのか、商館の商人達を呪うべきなのか、肺までもが凍り付きそうな猛吹雪に遠退く意識を、何としてでも繋ぎ止めようとダンクスは歯を食い縛っていた。
山道に差し掛かった辺りまでは、食料となる果樹に鳥が囀ずり、跳ねた川魚の目映い煌めきに目を細め、足取りも快調だった。
やがて勾配が激しくなるにつれ、視界から徐々に木々が消えた。
植物が失せると、生物の気配も消えた。
土を踏みしめていた鉄のサバトンは、次第にゴツゴツとした岩肌を迎えた。
頭上の装いも不吉に蠢き、青から灰へと転換した。
そして気が付けば、前後左右の見境が無くなっていた。
「おい!! みんな無事かっ?!!」
ダンクスは再び声を張る。
既にはぐれたのだろうか。
いや。自分が正しい方角へ進んでいるのかさえ怪しい。
もしやはぐれたのは自分で、仲間はまだ青空の元、自分の行方を探しているのかも知れないとも思えてきた。
ダンクスは初めてサバトンを止めた。
僅かの躊躇の後、直ぐ様頭を振って一歩踏み出した。
迷っていてはいけない。前に進まねば変化は訪れない。
全身全霊を奮い起たせ、更に一歩を進むべくサバトンを抜いた、その時だった。
吹雪が止んだ。
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