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創子さんが泣いてた。
ポロって、涙を流していた。
そして、
「ありがとう。その通りだよ。
でも、辛いっていうか、寂しいとも違って、なんだろうね。後悔かな。どうすればよかったのかなって。どこで間違ったのかなって。」
言葉を選びながら、でも、整理できない感じで、創子さんは話してくれた。
「でも、相手が悪いんだから…」
「そう。でも、それまでに、見て見ぬ振りしてたことも、たくさんあったんだ。」
俺にはよくわからない話だ。結婚してて浮気して、相手に子どもができて、どう見たって、男が悪いんじゃないか。
って、言いたかったけど、それを言う俺は、すごく子どもっぽく感じて、結局何も言えなかった。
「でもっ」
って、創子さんが、急に大きな声で言った。
「あいつが悪いわよね。実習生につけこまれて、子ども作っちゃって。それでも、教師かって!」
なぜか、キレた。
「君、明日暇でしょ。付き合いなさいよ。ママさんには、私からお願いするから。」
えっ、付き合うって?ドキドキしていたら、目の前にビールの缶が
あ~、その付き合いね。
「いいっすよ。でも、母さんには、俺から言います。」
いそいそと、お酒とつまみを用意する創子さんをおいて、玄関で母さんに電話した。
「もしもし、母さん。」
「なあに、シュークリームがなかったら、どら焼きでもいいわよ。」
「ごめん。行くときに706の創子さんに会って、一緒に飲むことになったから、帰り遅くなるっっから。」
嬉しさが声に出ないように、妙に早口になる。いろいろ説明が足りないから、突っ込まれそうだ。
でも、母さんは何にも聞かず、
「ふーん、しっかり話を聞いてあげて。藤は、人の気持ちの分かる子だから。」
母さんは、俺が中学生のときのことを思い出しているのだろう。目や髪の色の違いでいじめられた俺を。母さんを責めることなく、耐えていた俺を。
「創ちゃんによろしく。今度は我が家で飲みましょうって、伝えて。」
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