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「ピンポーン」
当たり前だけど、うちと同じチャイムの音が響く。
ガチャ
ドアの開く音。これもうちと同じ。
「こんばんは。お疲れさまでした。」
創子さんが笑顔で迎えてくれた。つきあえたら、こんな風に過ごすのだろうか。まだ、告白もしていないのに想像してしまう。
「こんばんは。突然にすみません。」
手みやげに持ってきたビールとつまみ、バイト前に買っておいたお菓子などを手渡す。
「あら、悪いね、ありがとう。上がって。」
「おじゃまします。」
「夜ご飯は食べた?」
「あっ、休憩中に軽く。」
「じゃあ、藤くんが買ってきてくれたものを一緒に食べようか。」
言いながら、テーブルに並べ出した。ついでに、夕飯の残りのおかずも並べてくれた。
「お疲れさま~」
缶ビールを開けて、乾杯をした。
いきなり本題を話す勇気がなくて、雑談で間をもたす。
「今日も遅かったんですか?」
「う~ん、夕飯の買い物したり本屋に寄ったりしたから、9時くらいかな。」
「仕事、楽しいですか?」
いやいや、こんなこと話に来たんじゃないよな?
「ふふ、楽しいよ。怒ることも多いけど、同じくらい笑うこともあるし。今、1年生でチビッ子なんだけど、かわいいよ。」
「そうですか。創子さんが笑ってるの想像できます。」
「ふふ、すごい怒ってるときもあるよ。藤くん、ひくよ。」
「マジっすか。見たいかも。むしろ怒られたいかも。」
ボソッと呟いたら、創子さんがビックリしていた。
「君はMだったのか。昨日はそんな感じしなかったけど。」
しれっと昨日の話をされた。
「すみませんでしたっっ。」
テーブルの横の床に額をつけて謝る。
「分かっているよ。昨日のことは忘れたよ。」
頭の上から、創子さんの穏やかな声が聞こえた。
えっ、そういうこと?違うって。
「ち、違います。俺、そういうつもりじゃなくて、いや……そ、そういうことしたけど……」
テンパってきた。俺は、話すのが苦手でよくどもったり言葉が出なくなったりする。あのいじめからだ。
しばらく、一人で頭を抱えている間も、創子さんは黙って待ってくれた。
「忘れないで下さい。俺、好きなんです。前から、結婚しているときから。」
言った、言っちゃった。
反応がない……やっぱり……だよな。
おそるおそる創子さんの顔を見る。
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