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「えっ、何?」
慌てる創子さんがおもしろい。何で知っているの?って言うから、胸元のネームカードを指差す。
「あぁ~、このまま、電車乗っちゃった。個人情報だだ漏れ。恥ずかしい。」
創子さんは、赤い顔をして項垂れる。髪の毛が落ちて、白い項が見える。あのとき、何度と口づけた場所。思わず、手がのびそうになる。が、方向を横にずらして、小さな頭をポンポンと叩く。
「名前だけだし、大丈夫だよ。でも、名前は前のままなんですね。」
「うん、子どもたちに説明しにくいし。新年度まではこのままで。書類上は戻っているんだけど、通称って感じかな。」
「そっか、じゃあ、小野寺先生って呼ばれちゃうんだ。」
「子どもたちは、そーこせんせーって感じだけど。」
子どもの口調を真似して言う。でも、小野寺先生と呼ばれることは多いだろう。その都度、そうだったって思うのかな。それとも、慣れた名前だから気にならないのかな。
「藤くんは、これからお出かけ?飲みに行くのかな~。」
「そうなんです。大学の友達と駅前の居酒屋で。」
「楽しそう。でも、飲み過ぎに気をつけてね。あと、この帽子可愛いね。」
さりげなく頭をポンポンと触られる。思わず、その手首を掴んでしまった。
「ありがとうございます。また、夜、連絡します。」
それだけ言って、逃げるようにエントランスを出た。
ヤバかった。あのまま何をしようとしたんだ。掴んだ手首があまりにも細くて、落ち込む姿が可愛くて…
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